医療従事者が患者さんの注射針等を誤って刺してしまう事故は現在もよくみられます。針刺し事故があった場合は、ただちに刺した部位を水でよく洗滌し、できるだけ血液を絞り出します。頻度は、看護師(90%)、医師(7%)、その他(3%)と言われており、リキャップ時の事故が最も多いとされています。
B型肝炎患者さんの針刺し事故の場合
HBeが感染性の指標とされ、患者さんのHBe抗原が陽性(HBe抗体が陰性)の場合は感染力は強く、逆にHBe抗原が陰性(HBe抗体が陽性)の場合は感染力が弱いとされています。しかし、変異B型肝炎(pre C mutant)も知られており、HBeが絶対の指標ではありません。
事故を起こした人のHBs抗体が陰性あるいは抗体価が低い(50 mIU/ml以下)場合は、抗HBs人免疫グロブリン(ヘブスブリン、ヘパトセーラ)を注射します。
できれば48時間以内、遅くとも1週間以内の注射が望ましいとされています。体重70kg未満であれば1,000単位を、70kg以上であれば2,000単位を筋注します。さらに、組換え沈降B型肝炎ワクチンを注射します(事故発生後7日以内、1ヶ月後、3ヶ月後の計3回)。既にHBs抗体が十分に陽性の方はこうした治療は必要ありません。
C型肝炎患者さんの針刺し事故の場合
C型肝炎に対しては感染を予防する有効な対策はありません。免疫グロブリン、ワクチン、内服薬など感染予防に役立つ方法はありません。感染が確認された段階で、治療を開始する以外に方法はありません。
一時期インターフェロンを注射した時代もありましたが、効果はあまり期待できず、最近は行われていません。受傷後は定期的な肝機能検査やHCV抗体検査が必要です。ただし、感染したとしてもHCV抗体が陽性化するのに2〜4週間 かかります。従って、受傷直後にHCV抗体を
測定して陰性であったとしても、感染していないとは言えません。
HIV患者さんの針刺し事故の場合
HIVの針刺し事故による感染の危険は0.3%と報告されています。 針刺し後の予防内服により抗体陽性化(感染成立)が約80%減少したとの報告があり、現在では3剤併用(AZT,3TC,IDV)が最も有効性が期待できるとされています。
(1) 1回目(受傷後 、できるだけ速やかに(少なくとも1-2時間以内に)服用する)
AZT(レトロビル) 200mg
3TC(エビビル) 150mg
IDV(クリキシバン) 800mg
(2) 2回目(1回目の8時間後)
AZT(レトロビル) 200mg
IDV(クリキシバン) 800mg
(3) 3回目(2回目の8時間後) 1回目と同じ3剤を同量服用する。
(4) 以後の内服治療(以下の処方で1ヶ月間内服を続ける)
AZT(レトロビル) 600mg 分3(毎食後)
3TC(エビビル) 300mg 分2(朝・夕食後)
IDV(クリキシバン) 2400mg 分3(毎食後)
HIV曝露後は、予防薬服用の有無にかかわらず、曝露後3ヶ月目の検査結果が判明するまでの期間は、相手および妊娠した場合の胎児への感染回避の目的から避妊を励行する。
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