当院におけるC型肝炎の治療方針について
C型肝炎を放置すると、肝機能が悪化し、徐々に肝硬変へと移行し、ついには肝細胞癌が発生する可能性があります。日本における肝臓癌の方の実に80%がC型肝炎ウイルスに罹患されています(1999年肝癌死亡者数:33,816人)。したがって、肝硬変への移行を防止し、肝癌発生を食い止めるためには、C型肝炎を治療する必要があると考えられます。
基本的に、肝機能が全く正常範囲の方は、ウイルス量の多寡に関わらず、急いで治療を受ける必要はありません。定期的な経過観察がよいでしょう。下記に述べますが、ウイルス駆除療法の有効性が低い現状では、肝機能が正常な場合は慌ててインターフェロン療法を選択されない方がよいと思います。
治療の対象となるのは、C型肝炎に罹患し、かつ肝機能が悪化されている方々です。
治療には大きくふたつの方針があります。@抗ウイルス療法、A肝庇護療法、です。 抗ウイルス療法は、C型肝炎ウイルスを排除しようとする治療です。ウイルスがいなくなれば、肝機能は正常化し、肝硬変への移行の心配も、肝細胞癌発生の心配もなくなります。つまり、いわば”根治治療”ということになります。もちろん、これが一番望ましい治療ではありますが、現在はインターフェロンという薬剤以外に方法論がなく、さらにインターフェロンもすべてのC型肝炎の方に効くわけではないというのが最大の問題点です。全C型肝炎患者さんで見ると、インターフェロンで治療できる方は、わずかに30%でしかありません
。そして、発熱などの副作用で悩まれる方が多いのも欠点と言えるでしょう。
肝庇護療法は、抗ウイルス療法が無効であった方、あるいは抗ウイルス療法の適応とはされない方で、肝機能が悪化している方が対象になります。どの程度の肝機能の悪化が治療対象となるのかについては議論のあるところですが、当院では、GPT(ALT)が80 IU/L以上の方を治療対象と考えています。肝臓での炎症を抑えれば、たとえC型肝炎ウイルスがいても、肝細胞癌への進展を阻止することができるからです。なんとかGPT値を50単位以下にすることを目標にしています。
軽度の肝機能異常の場合にはウルソの内服を、中等度以上であれば強力ネオミノファーゲンC(SNMC)の静注を行います。その他に、漢方薬(小柴胡湯)も用いられますが、当院ではあまり差し上げていません。
C型肝炎に対する治療方法の選択について
まず肝機能が正常であれば、経過観察でよいでしょう。
肝機能異常がGPT 80以下であれば、重点的な経過観察あるいはウルソの内服がよいでしょう。
GPT
80以上であれば、何らかの治療が必要です。手順としては、まず抗ウイルス療法の適応があるのか否かを検索します。ウイルス型(保険適用はセロタイプのみ)・ウイルス量を調べ、インターフェロンが奏功するタイプか否かを調べます。すでに肝硬変に至っていないかどうかの画像診断も必要です(超音波検査、CTなど)。また、呼吸器疾患・甲状腺疾患などの有無もチェックする必要があります。こうした医学的な適応の判断を踏まえて、最終的にはご本人の判断が必要になります。いくら医学的に適応があっても、やはり有効率は決して100%ではなく、副作用も強い薬剤ですから、
十分なインフォームドコンセントが必須の治療方法と言えるでしょう。過度な期待は、あとでがっかりする結果を生むことになりかねませんから。
GPT 80以上であり、抗ウイルス療法の適応ではない場合、抗ウイルス療法を希望されない場合、あるいは残念にも抗ウイルス療法でウイルスを排除できなかった方の場合は、ウルソの内服あるいは強力ネオミノファーゲンCの静注療法が必要です。肝庇護療法目的にインターフェロンの少量長期間歇投与も提唱されています。こうした方々にとって大切なことは、なんとか肝機能を正常化させ(肝臓
の炎症を鎮静化させ)、肝硬変への移行と肝癌の発生を防止する医療ではないでしょうか。すなわち、なんとか現在の医学で、将来の医学に期待を託せるような治療こそが必要ではないかと当院では考えています。